博物誌 - 魚介類
カサゴ(笠子):
カサゴ目 カサゴ亜目 フサカサゴ科
瘡魚 とも書く。
Scorpionfish (英)
カサゴ類と一口に言ってもその種類は多く、カサゴの属するフサカサゴ科に限って
も、メバルやミノカサゴ、オニオコゼなどが含まれる。
カサゴはアンポンタン、瘡をかいたように醜いなどと中傷されながらも地道に足場
を固め、現代では高級魚という地位にまで出世した、大器晩成型あるいは苦労人
型の魚と言えよう。
なぜアンポンタンなどという名前がついたのかは諸説あるが、深い海の底から釣り
上げられたこの魚を見れば一目瞭然である。
目は飛び出し、これでもかと言うくらい大きく開いた大きな口からはまるでベロの
ように浮き袋を突き出した、必死な形相のパグ犬のような顔をみれば誰だって
「フフ、このアンポンタン…」
と呟いてしまうに決まっている。
しかしだからといって、「コイツゥ!」などと指で突付いたりしてはいけない。
カサゴ類はヒレに毒を持つものが多く、その毒はハブの18倍、オニオコゼに至って
はハブの81倍の強さと言われている。
日本では極めて古い時代、ヤマトの神々が降臨する以前から山の神との関わりが
強く、猟師や山仕事を行う人々の間では仕事が上手く行くように、あるいは山で
迷ったりしないように、干したオコゼやカサゴの一種(これもオコゼと呼ばれる)を
紙に包んで山に持って行く風習がある。
この干した魚の頭だけ紙から出して、猟があったら、無事に仕事を終えられたら、
全部オコゼを見せますと願掛けするのである。
山の神はオコゼを見たいばかりに猟や山仕事を手伝ったりするとされている。
なぜ山の神はそれほどまでオコゼを見たいのか、昔から民俗学者たちの間で議論
されてきた。
「山の神は醜いので自分より醜い物を見て大笑いするからである」というのが有力
な説であるが、これには疑問を呈さざるを得ない。
「お神酒あがらぬ神はなし」という言葉が示すように神への捧げ物は自分達人間に
とっても喜ばしい物が選ばれるのが普通である。
そもそも伝説の中には山の神を美しい女性として伝えるものもあり、山の神が醜い
などと考える者がいたらバチを当てられること確実であろう。
よってそのような理由でオコゼを山に持ち込もうものなら自ら罰当たり者の目印を
付けて歩くようなものだ。
やはり神への捧げ物は、神も自分達と同じく喜ばしい反応を示すことを期待できる
物でなければならない。
ということはこの風習が出来た当初、太古の日本人はオコゼを前に大笑いしていた
のだ。
太古の日本には刺されると神経回路に作用して多幸感などの中毒症状をもたらす
毒を持ったカサゴ類が存在したのだろうか?